君の知らない空
部屋の中を包んだ沈黙を掻き消したのは、周さんの大きな溜め息だった。
周さんは私の前にコーヒーの入ったマグカップを無造作に置くと、
「もういい、それ以上は知らなくていいことだ。お前に教えることは何もないし、聞いても何も答えられない。これ以上、俺らの領域に入ってくるな」
と吐き捨てるように言う。
脅しているのかと思うような冷ややかな目で、周さんが私を睨んでる。さっき食事を振舞ってくれてたにこやかな表情が嘘のようだ。
このまま睨み合うのかと思っていたら、周さんはくるりと背を向けてキッチンへと戻っていく。
目を逸らした周さんの負けだと内心思っていたら、すぐに戻ってきた。その手に持っているマグカップのひとつを彼の前に置く。
「今、俺に勝ったとか思っただろ?」
と言って私の顔を覗き込んだ。
何だか腹が立つ。
「そんなこと、思ってませんから!」
思わず言い返したら、隣で彼がくすっと笑う。そっとカップを口に運ぶ彼の横顔に、見入ってしまいそうになる。
「お前も早く飲みな、冷めるだろ」
不意に投げ掛けられた周さんの言葉に、ドキッとした。明らかに私を邪魔する声。
「いただきますっ」
ちらっと睨んでカップを口に運ぶ。香りが口いっぱいに広がっていく。癒されてく感覚に目を細めた瞬間、違和感を覚えた。
彼と周さんは美香と知り合いだと言ったけど、本当なのだろうか。
二人が美香の兄を狙っていることを、美香は知っているのだろうか。いや、もしかすると美香が綾瀬の妹だと知らないのではないか。
そうでなければ、繋がらないと思う。