君の知らない空


職場の様子を想像するのは簡単なことだった。だからこそ、不安でたまらない。明日は何があっても、必ず出社しなければと決意して携帯電話を握り締めた。


「どうしたの?」


いつの間にか、彼が顔を覗き込んでる。驚いて飛び退きそうになる私を見て、彼 が不思議そうな顔をした。


「えっ、職場の友達からのメールなんですけど、何か、いろいろとあって……」


おどおどしながら答えた。
じっと顔なんて見られたら恥ずかしいし、急に尋ねられても困る。職場のことを話しても彼にはわからないだろうし。


でも、同時にぞっとした。


もし本当に、彼が課長を……


そう思っても、彼の顔を見てる私の胸の高鳴りは止められない。自分の気持ちが確実に彼へと傾いているんだと分かる。


彼がどんな人でもいい。
心から思った。


課長の死因はまだ聞いてない。でも不審死なら検死しなければならないから、葬儀まで日にちが掛かると聞いたことがある。


ということは、彼は関わっているというのは実は嘘で、課長は病死か事故死かもしれない。


昨日まで見た目も普通で元気だったのだから、病死はあり得ないはず。でも急に何か起こることもあるだろう。心臓発作や脳卒中などの突発性のものが原因かもしれない。


自分自身に言い聞かせる。


「職場って、大変な所なんだね」


呟くように彼が言った。


彼は美香が職場で辛い思いをしていることを知っているのだろうか。そんなこと、彼には関係ないし興味はないのかもしれないけど。


でも、少しぐらいは知っていてもらってもいいのかもしれない。
と思って、私は話すことを決めた。



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