君の知らない空
「君のことは最近……彼女が働き始めて間もない頃に頼まれた。君の彼氏のことも聞いてる。彼氏のことも気にしておいてと言ってた」
彼の言葉には、ためらう様子も後ろめたさも感じられない。ただ、彼は頼まれたことをこなしているだけ。
そんな言葉なのに、どうして私の胸はざわめくんだろう。
「じゃあ……以前、駅前の高架下でバッグを盗られそうになった時、助けてくれたのは美香が……? この近くの路地裏で助けてくれたのも美香に頼まれたから?」
「うん、高架下の時は彼女に頼まれてた。路地裏の時は違う、あれは君が勝手について来たから助けた」
彼が助けてくれたのは偶然でも運命でもなかった。
彼は知ってたんだ。
いや、美香は知ってたんだ。私が危険な目に遭うかもしれないと。
だから彼に頼んだのだ。
でも……どうして?
「美香は、どうして私がひったくりに遭うってわかったの? 美香とは職場で関わってるだけなのに……美香は入社して間もなくて、何が危険だかわからなかったし……」
「それは君が彼女と親しかったから。彼女が入社する前に、社内には彼女の父親の部下が入ってた。その中には、父親の意志とは反する者がいた。彼女はその人物を確かめるために入社したんだ」
「それが、課長だったの? ひったくりは課長が……? あ、それじゃあ江藤が襲われたのも?」
「そう。そのひとりが課長さんだった。江藤さんを襲わせたのも課長さんだろうね」
美香が話したこととは違う。
いや、言いたくても言えなかったのかもしれない。社内の知らないところで、こんな事があるなんて。