君の知らない空
  

「美香がそんな気遣いしてくれてたなんて……どうしてお父さんのことを……お父さんは本当に無事なんでしょう?」

「もちろん無事だよ、どこにいるか僕は知らないけど……身の危険を感じて姿を消しているだけだから」


私の質問に全く嫌な顔をするわけでもなく、彼は淡々と話してくれる。


どうして簡単に話してくれるのか疑問を感じるけど、知らなかったことや知りたかったことが明らかになるのは正直嬉しい。


きっと周さんがここにいたら、目くじらを立てて怒るだろう。怒る顔が浮かんできて、背筋が寒くなる。


「社内の人間がお父さんを狙っている。それが誰か分かるまで、身を隠しているんだよ」

「でも、課長がいなくなっても……お父さんを狙ってる人はいるんでしょう?」


彼は、美香のお兄さんを狙っている。


市民病院で聞いたことがまだ頭から消えてはいないし、彼への疑いはまだ晴れていない。


菅野の部屋から漏れ聞こえた会話、隣の病室のおばさんから聞いた話、桂一の持っていた彼の写真と名前。


「彼氏から聞いたの?  彼氏が僕らを探してることも聞いたんだね、だったら……疑われても仕方ないね」


やわらかな口調だけど、ぞくっとするような目で私を見てる。まるで私がいろんな疑問を抱えていたのを、ずっと知っていたかのように思えた。


「ちがいます、疑っているわけじゃないんだけど……少し気になったから……」


彼がふわりと微笑んだ。


「安心して、僕は彼女のお兄さんを狙ったりしない。お兄さんを守るように言われてるんだから」


はっきりと言い切る彼の、偽りのない澄んだ目に引き込まれそうになる。
湧き上がるのは安心感と彼に対する思い。


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