君の知らない空
会議テーブルに肘をついて、江藤がオバチャンらと私の顔を確かめるように見つめた。
「少し強引ですが、策があるんです。覚悟を決めてもらえませんか? 」
「覚悟? 何をするつもりなの?」
オバチャンらは眉間にシワを寄せ、顔を見合わせた。覚悟という言葉に、少なからず抵抗と不安を感じているのだろう。
「僕たちだけでなく、他の社員たちにも事実を知ってもらった上で、共に行動を起こす必要があるんです」
江藤の自信に満ちた笑みが、安心感を呼び起こす。オバチャンは諦めたように、ふうと息を吐いた。
「わかった、私たちは何をすればいい?」
「まずは他の社員に話して、T重工にも助けを求めましょう。この際、多少のリスクは仕方ないと思ってもらわなければ……」
胸の前で腕を組んだ江藤は、遠い目をして考え込む。真剣な表情は、今までの江藤の軽いイメージを一掃させる。
「もちろん上層部にはバレないように……なのよね? だったら全員呼び出さない方がいいわね」
江藤に呼応したオバチャンの表情から、不安の色はすっかり消えている。
「そうですね、少しずつ、且つ迅速に進めていきましょう」
「ねえ、余所者は本当に上層部だけなのかしら? 一般社員の中にも居たりしない? どう見極めればいいと思う?」
と言った山本さんが、怖い顔をしている。その中には美香も含まれていると、察しはついた。
「僕は上層部だけだと思っているんですが……山本さんと野口さんの判断にお任せします。お二人の方が、この会社のことをよく知ってるはずですから」
江藤はゆるりと口角を上げる。
安心したオバチャンらは、にこりと笑顔で返した。
「そうね、どうせ辞めるんだから関係ないわね」
山本さんと野口さんが顔を見合わせる。聞き捨てならない一言に、私は思わず身を乗り出した。