君の知らない空



「辞めるって、どういうことですか? それは白木さんのことですよね? 白木さんが言ったんですか?」


問いかけた私の口調は、自分でも驚くほど強くなっていた。顔を引きつらせた山本さんは私を一瞥して、


「ああ、これから話そうと思ってたのよ。昨日、彼女といろいろと話してね、時期は決めてないけど近いうちに辞めるって言ってたわ」


と落ち着いた口調で答える。
野口さんも特に驚く様子もなく、むしろ安心したような表情。


「勘違いしないでね、私たちが辞めろと言った訳じゃないんだから、彼女が言ったのよ」

「今日は体調不良で休んでいるようですね、彼女もいろいろと疲れている様子でしたから……」


江藤の溜め息混じりの声が、悲しげに聞こえた。


昨日、オバチャンに相当責められたんだろうか。それなのに美香は何も言わず、私を気遣う内容のメールを送ってきていた。本当は吐き出したいのかもしれないのに。


「私たち、やっぱり会社をクビになっちゃうのかしら?」

「この年でクビになったら再就職は難しいわね」


美香の事はさておき、オバチャンは自分たちの身の振り方を気にしている。罪悪感なんて微塵もないんだろう。
美香を思うと悔しくて堪らない。


「何もしないでクビになるよりも、今できる事を精一杯やってみましょう。悔いが残らないように」


はっきりとした江藤の声が、悔しさと不安を拭い去ってくれるように胸に響いた。きゅっと結んだ江藤の口元には自信が満ちている。


江藤の言う通り、今やるべき事をやってみるしかないんだと真っ新になった胸に言い聞かせた。


結局それ以上は何も言わずに、オバチャンらは事務所へと戻っていった。




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