君の知らない空
オバチャンらを見送った江藤は椅子にどかっと体を預け、天井を仰ぐと大きく息を吐いた。オバチャンに見せた固い表情とは違う、いつもの江藤の顔。
これから何か話すつもりだ。
「さて、高山にはちゃんと話しておかないとな。美香のこと、俺が辞めるってオバチャンに言うように勧めたんだ。本当に辞めるか辞めないかは別にして」
一瞬、何と返したらいいのかわからなかった。オバチャンが言わせたと思っていたのに、味方だと思ってた江藤が言わせたなんて。
「どうして? そんなこと簡単に言っちゃったの? 美香に辞める意思は無いかもしれないのに、どうして?」
声を荒げる私に手を翳して、江藤が懸命に宥める。そんなことされても、抑えられるはずもない。
「落ち着いて聞いて、まずはオバチャンの関心を美香から逸らそうと思った。今回の件に美香も関係あるかもしれないけど、まずは会社としての事を考えるべきだと思ったから」
「でも、辞めるなんて言っちゃったら取り返しがつかないでしょう? 本当に辞めなきゃいけなくなるじゃない……」
江藤の言う事もわかるけど、本当にそれが正しい事なのかは分からない。『辞める』なんて最後の言葉としか思えないから。
「あのさ、心配するなって。正式に辞表を出した訳じゃない。オバチャンに言っただけ、口約束なんだから……それに、この先どうなるか分からない会社なんだ」
江藤の言い方は、悲観的にも楽観的にも受け取れる。
どうせ先が見えないなら、今は何をしてもいいと言うのか。いずれクビになるのなら、その時を適当にやり過ごしてみる? 結果的に良かったら、その選択は正解だったのかも。
「それが、江藤の言う覚悟なの?」
「そんな感じかな……絶対に悪いようにはしないから、俺が約束する」
にやりと笑う江藤は、不思議なほど頼もしく見えた。