キウイの朝オレンジの夜


 あたしは助手席で身を引こうと努力する。だけどシートベルトを外してなくて、それ以上は身を引けなかった。

「あ・・・あの、稲葉支部長?」

「何」

「ち――――――近い、ん、ですけど」

 うん?と彼は目を瞬く。笑顔は引っ込めたけど、相変わらず体は近づきつつあった。

「こんなの全然近くない」

 はい?と思うのと同じタイミングで、彼は両手をダッシュボードにおいて体を固定し、更に顔を近づけた。

 吐息があたしの頬をかすめる。あたしは目を見開いたままで硬直している。睫毛が触れるかと思う距離で、彼がフ、と笑った。

「・・・近いってのは、このくらいかな」

 鼓動があたしの体の中でガンガン鳴り響いていた。極限状態のあたしはこの現実に対応出来ない。

 ああ、神様。どうしてあたしはこんな目に?

 もう、もう、稲葉さんの美しい形の唇はあと3センチほどの場所にある。ちょっと動けばアクシデントでぶつかれる距離だ。

 つい想像してしまって、興奮で気が遠のきそうなあたしだった。

 超接近した状態で、稲葉さんはじいっとあたしを見ている。

「なんで避けてんだ?」

「きっ・・・気のせいです~!」


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