キウイの朝オレンジの夜
「何を今更。脱がせて欲しいなら、そう言え」
瞳がキラリと光る。あたしはヤツの本気を感じとって、冷や汗を出した。ここで襲われることを考えたら、大人しく言う通りにしよう。そう判断して、全速力で服を脱いで浴室に飛び込んだ。
言われたようにお湯をはりながらシャワーを頭から浴びて温まる。その熱さでどれだけ自分が冷えていたかが判った。
ドアが開いて彼が入ってくる気配。あたしは目を瞑ってシャワーに打たれる。
熱い水の玉で、気持ちまで解けて行くようだった。
溜まりつつある湯船に浸かりながら稲葉さんが聞く。
「・・・お別れ、出来たのか?」
あたしはお湯のシャワーに当たったままで、頷く。
「自分のお客さん?」
「・・・いえ」
頭を出し、顔を手で拭ってから言った。
「地域の契約者様です。一般家庭への訪問や飛び込みで疲れた時によくいってました。お茶をくれたんです、毎回。そして、一緒に座ってぼーっとしたり、話をしたりしてました」
コメントはない。だけどあたしはそのまま話した。
「―――――辛くなった時や・・・辞めたいと思った時、逃げ込む場所だったんです。慰めてくれました。そんなに頑張らなくていいから、仕事も、出来るだけ楽しみなさいって・・・」
半分ほどに溜まっていた湯船から、彼が立ち上がった。