キウイの朝オレンジの夜


 明るい表情でドアを開ける。

 今朝はここから徒歩10分のラブホからの出勤だったのもあって、あたしが一番乗りだった―――――――と思ったら、違った。

「おはよう、神野」

 あたしは事務所に入って一歩目で、足を止めた。

 ・・・稲葉支部長、いらっしゃってたんですね。

 いつもは明るくてよく通る上司の声が、今朝は何だか固い。あたしは振り返って鬼支部長の机を見た。

「おはようございま・・・す。支部長」

 真顔の稲葉さんと目が会って、思わず声が途中で切れてしまった。笑顔がないぞ。・・・つーか、めちゃ怖いんですけど。

 整っている顔の人間が無表情だと、人形みたいでマジで怖い。

 あたしは既にびびりながら、自席へ向かう。そのあたしから目を離さずに、支部長席から稲葉さんがじいーっと見ている。

「・・・あの・・・何でしょうか・・・」

「何が」

 抑揚つけずに即行で聞き返されて、あたしは更にびびる。

 ・・・やめてよおおお~!折角、光にも元気を貰って新たな気持ちで出勤してきたのに、いきなり機嫌の悪い鬼上司の相手なんか御免だよー!

「・・・何でも、ないです・・・」

 居た堪れなくてあたしはコーヒーを淹れに給湯室へ向かうことにする。まだ8時前だもんな~・・・当分誰もこないよね。どうしよう、コンビニにでもいっとこうか?あ、でも財布持ってこなかった!


< 64 / 241 >

この作品をシェア

pagetop