金色の師弟

曇天の空の下、顔を赤くした男女が向かい合う。
人通りはない。
二人だけが、そこにいた。

「……貴方が私の弱点になると指摘されたわ」

「弱点……?」

ノルンは頷くと、タクトにしか聞こえないような声で囁く。

「私は、戦争を終わらせるためにこの国を裏切ろうとしているから」

タクトは絶句し、大きく丸い瞳でノルンを捉えた。

「……貴方を人質に取られたら、私は何も出来なくなる」

だから、とノルンは右手を差し出した。
どこで誰が見ているかわからない中、不用意にタクトに触れるようなことは出来なかった。

「私が貴方を守るから、最後まで私に付いてきて欲しいの」

ノルンの言葉が吐き出されるのと、タクトの手がノルンの右手をしっかりと握り締めるのは、同時だった。
一見するとただの握手でしかない触れ合いは、目に見えない多くのものを加速させた。

「……俺は貴方より非力で無力な人間だけど、誰よりも貴方を信じて付いていきます」

真っ直ぐに響いたタクトの言葉で、ノルンの頬は嬉し涙の雨に濡れた。
< 611 / 687 >

この作品をシェア

pagetop