*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
確かに私は柏木様が気になる。
だけどそれは恋愛感情ではなく……と言うか彼女に恋愛感情を持つなんておこがましい。
柏木様に失礼じゃないか。
彼女はそう、私とは違う世界の人なのだ。
私はそう―――ここで私に名前を与えてくれたひとのことを
知りたいだけ。
謎めいた彼女のことを―――知りたい。
それだけ。
柏木様がこのマンションの住人になられてから数ヶ月。
彼女のことを少し知ることができた。
彼女は私にほとんどと言っていいほど頼みごとをしてこない。
(もっとあれこれ言ってくれてもいいのに)
タワー内施設のプールやフィットネスを使用していいかと言う確認だけだ。
「どうぞ。ごゆっくりお使いになってください」
プールの空状況を調べて笑顔で彼女に伝えると、
「ありがとうございます、ウチヤマさん」
彼女はまたもぺこりと頭を下げる。
このところ、私は彼女に名前を呼ばれるのが嬉しいのだ。
これは恋のはじまりと言うものだろうか。
いやいや、
はじまっちゃいかんだろ。
と、自分に言い聞かせている今日この頃。