*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
結局柏木様はタクシーで会社まで向かわれた。
私はキーを預かり業者を呼んで、作業をしてもらった。
「レクサスのLFA!すっごいですね~。ホンモノはじめて見たっ」
業者の人間はバッテリーをケーブルで繋ぎながらも、惚れ惚れとその白い車体を眺めている。
ベンツやジャガー、レクサスと言った高級車の面々。
この駐車場はスーパーカーの展示場か、と突っ込みたくなるが一種浮世離れしたこの光景も、
また現実なのだ。
その中で見劣りしない柏木様のLFA。
彼女もまた私とは別世界の人間なのだ。
「大事なお客様の車です。丁重に扱ってくださいよ」
と念を押すと、
「分かってま~す」と間延びした返事がかえってくる。
本当に分かってんのか?
私は、と言うと大事な柏木様の車に何かしでかさないかと見張り役だ。
バッテリーの修復ぐらいなら私でもできるが、業者を呼ぶと言った手前プロにやってもらのがいいだろう。
若い頃は改造しまくっておまわりに追われる日々が……
いえいえ、とんでもございません、私はそんなこと一度もしたことないです。
さて、お話しを戻させていただきますと、
私がじっと作業の手を眺めていると、
「そんなに睨まないでくださいよ~。俺は車泥棒なんてしないっすから」
と作業員は苦笑い。
私はそれに何も返さずにいると、
「まるで恋人が寝取られないかどうかを心配してるみたいっすよ?」
と作業員は軽口を叩く。
―――…は?
「誰が恋人だ。早く直さねぇと、そのべらべら良く動く舌を引っこ抜くぞ」
思わずそんな“素”を漏らしていた私。
作業員はびっくりしたように、また怯えるように慌てて手を動かせた。