Secret Lover's Night 【連載版】
慌てて止めようにも、もう既に言葉は吉村に届いてしまっていて。複雑そうに苦笑いをみせた吉村が、ポツリ、と零した。


「好きや、言うてました。ハルさんのことが大好きやて」


千彩から発せられる音とは違う何とも悲しげなその「大好き」の音に、胸の奥がグッと締め付けられる気がした。

「帰りたない、言うんですわ。どうしてもハルさんと一緒がええて」
「だったら…」
「でも、そうゆうわけにはいかんのです。ガキの我が儘なんですわ。よぉしてくれはったから、懐いとるから離れたないだけなんですわ」

ズバリ、と不安を突かれた気がした。それだけでもう晴人の心は、原形がわからないほどに掻き乱されて。冷静に、冷静に。と思えば思うほど、深みに嵌まって行くのがわかる。


「それ、どうなんですかね?吉村さんがそう思いたいだけじゃないんですか?」


にこにこと笑いながら出されたメーシーの言葉には、明らかに棘が含まれていて。普段ならばそれを制して自分がフォローの言葉を紡ぐのだけれど、今はその言葉さえ選べない。改めて自分のこういった事柄に関してのキャパシティの小ささを知る。

「それは…そうかもしれません。けど…」
「けど?」
「俺も千彩が可愛いんです。わかってください。死んだ女の忘れ形見なんです」
「それ、親のエゴってやつじゃないんですか?」
「それは…」
「ちょっと、メーシー言い過ぎやて」
「ケイ坊は黙って」

ピシャリと一刀両断され、恵介までも口を閉ざした。

一体誰が当事者なのだ?と、本来当事者であるはずの晴人は、やはりいつまでも傍観者だった。
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