Secret Lover's Night 【連載版】
「おりこーにしとったら、またすぐハルさんが会いに来てくれるから」
「いつ?」
「いつかはわからへん。ハルさんもお仕事してはるからな」

お仕事、お仕事、お仕事。いつだってそればっかりだ。と、千彩はカンッとヒールを鳴らして抗議した。けれど、幼い頃から千彩の面倒を見て慣れている吉村は、晴人達と違って機嫌取るようなことはしなかった。

「お待たせいたしました」
「おおきに」
「またお待ちしております」

店員から小さな箱を受け取り、吉村は店を出ようと背を向ける。ぬいぐるみを抱えたままの千彩は、ギュッと両足を踏ん張って動かない意志を示した。

「悪い子は放って帰るからな」
「ちさ悪い子違うもん!」
「おりこーにできん子は悪い子や。そんな子にハルさんは会いに来てくれへんぞ」

晴人の名を出されれば、いくら頑固者の千彩とて弱い。渋々足を進め、黒塗りの高級車へと乗り込んだ。



膨れっ面のままこれでもか!とぬいぐるみを抱き締めること数分。二階建の一軒家の前で車を停めると、吉村は千彩を助手席から無理やり降ろしてインターフォンを鳴らした。

「お世話になります。吉村です」

いつでもスーツ姿の吉村は、やはり今日も今日とてスーツ姿で。そんな姿で黒塗りの高級車から降りてくるものだから、家の中でその様子を窺っていた智人はふぅっと小さくため息を吐いて玄関で母を引き止めた。

「なぁ、母さん」
「んー?」
「やっぱお兄の結婚、やめさした方がええんちゃうん?」
「何で?ちーちゃんいい子やないの」
「でも…」

確かに、千彩が「悪い女」だとは思わない。一度会って少し会話をしたくらいだけれど、兄が異常に可愛がっていることもわかる。

けれど、智人にはどうにも納得がいかなかった。
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