Secret Lover's Night 【連載版】
リビングの掛け時計を見上げながら、智人は再び大きく息を吐く。

時刻は18時。そろそろ夕食の準備をして、バンドの練習に出かけなければならない。

「おーい、千彩」

呼びかけても何の返答も無い千彩の頭を撫で、更に深いため息を吐く。

泣き疲れて眠ってしまうとは、まさしく幼児。何がどうなってこうなった!と、脳内を整理しきれない智人は叫び出したくなった。

「千彩、おーい」

ぐすりと鼻を鳴らしはするものの、千彩の瞼はしっかりと閉じられていて。どうせぇっちゅーねん!と苛立つ智人のジーンズのポケットから、軽快なメロディが携帯への着信を告げた。

「はーい」
『もしもし、智?』
「俺の電話には俺しか出ません」
『反抗期か?』
「ちゃうわ!あんたの嫁のせいでイライラしてんねん!」

思わず本音をぶちまけてしまい、思いのほか大きな声を出してしまったことにハッと声を押し殺す。

「千彩、何なん」
『何なんって…何なん』
「よぉわからんわ、コイツ」

コツンと頭を小突いてみても、やはり千彩の瞼は持ち上がる気配がなくて。ここは兄に教えを請うべきか。と、進まない気を何とか奮い立たせ、智人は口を開いた。

「おかんとおとんが広島行ってもたから、俺が千彩の面倒見てんねやけど」
『おぉ。おかんから電話あったから電話したんや。千彩、どないかしたんか?』
「コイツさぁ、ホンマに17?泣くわ喚くわで幼稚園児みたいなんやけど」
『泣いてんのか?』
「一頻り泣いて、疲れて寝てはるわ。俺の膝の上で」
『あー…』

複雑そうな晴人の声に、智人の苛立ちが再燃する。あー…やないわ、あー…や!と。
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