Secret Lover's Night 【連載版】
「これは詩集。ゲーテって知ってるか?」
「げーて?何それ」
「詩人」
「しじん?死んだ人のこと?」
「いや、それ死人やろ。お前わざと?」
「え?何が?」

晴人と違って千彩の脳内レベルをよく知らない智人は、千彩の脳内で漢字が上手く変換出来ていないことさえ気付かない。グシャグシャと頭を掻きふぅっと大きく息を吐く智人に、千彩が不安げに尋ねた。

「ともと、怒った?ごめんね?」
「いや、怒ってないけど…」

向けられる瞳は、不安で大きく揺れていて。これはどうしたものか…と、押し黙る智人に余計に不安を煽られた千彩が、とうとうポロポロと大粒の涙を零し始めた。

「うわっ…泣くなって」
「ごめんなさい…」
「ごめん、ごめん。俺が悪かったから」

何が悪かったのかはわからない。けれど、何か自分が悪かったのだろう。幼児の面倒など見たことがない智人は、オロオロと狼狽えるしかなかった。

「千彩、俺が悪かったから」
「うぅ…」
「よし、こっち来い。抱っこしたろ」

両手を伸ばし、ふと気付く。確か、千彩は17歳だったはずだ、と。

「ともとぉ…ごめんなさいぃ」
「わかった、わかったから」

自分の腰にしがみ付きながら無く千彩は、兄の結婚相手で、17歳のはずで。

初めて会った時からどこか変だとは思っていたけれど、兄が正真正銘の「ロリコン」だと悟った智人は、襲ってくる頭痛に泣きたくなった。
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