Secret Lover's Night 【連載版】
コンビニまでほんの2・3分の距離と言えど、やはり少数でも人の目に触れる。ぶかぶかのTシャツでは不格好だろうと思ったのだ。

「はるー、洗ったよ」
「ん。ほなこれに着替え…って!おい!」

一応は止めはしたのだ。

けれど、それよりも千彩の潔さの方が勝っていて。

あっと言う間に晒される、白い肌と揺れる豊かな膨らみ。下手に止めてしまったものだから、それらを晒した状態で千彩は首を傾げた。

「もー」
「もーって?」

渡し掛けていたTシャツを広げ、襟口に無理やり千彩の頭を押し込む。そして、未だ両腕に引っ掛かったままだったTシャツを引き抜き、晴は無言でその場を去った。

その後に、ペタペタと足音が続く。

「はるー?」
「待ってー。俺も顔洗うから」

振り返りもせずそう答えると、ペタリと背中に密着する千彩。すぐさま腰に腕が回され、晴は逃げるどころか洗顔さえさせてもらえない状態となった。

「もー。こらこら」
「はるぅ」

脇から顔を覗かせる千彩の瞳が潤んでいる。ふぅーっと大きく息を吐き、晴は身を屈めてそっと額に口付けた。

怒っているわけではない。晴の方が少し照れていただけなのだ。

「わかったからちょっとだけ離れてくれる?」
「いや」
「困った子やなぁ。顔だけ洗わせてや」
「はるぅ」

ぐすり、と千彩が鼻を啜り始める。困ったように眉尻を下げ、弱々しい声を押し出す千彩がどうにもこうにも可愛くて堪らない。

「ちぃっ」
「きゃー!」

勢いよく抱き付き、左右に体を揺らしてはしゃぐ千彩を喜ばせる。揺れる度にきゃーっと楽しげな声を上げる千彩の瞳には、もう涙の色はなかった。

ホッと安堵の息を吐き、気が済んだ晴は動きを止めてぎゅうっと柔らかな千彩の抱き締める。

「はる?」
「この甘えん坊め」
「はる…怒ってない?」
「怒ってへんよ。あまりに潔く脱ぐからびっくりしただーけ」
「へへっ」

照れくさそうに笑うと、千彩はグリグリと胸に額を擦りつける。そんな甘えん坊の頭をゆっくりと撫でながら、晴はふと思い返した。

「ちぃ」
「んー?」
「お前、下着は?」
「ないよ?」
「ないよって…」
「だってドレス着て来たもん」

そう言えば…と、今更ながら思い出す。ドレスのままここへ連れて来た。オフショルダーのものだっただけに、着けていなくても不思議ではない。

「着替えは?」
「持って来なかった」
「ですよねー。ははっ」
「はーい」

元気よく手を挙げる千彩に、デコピンを一発くれてやる。大袈裟に痛がりながら、甘えん坊が再び擦り寄ろうと手を伸ばして来る。それを片手で押し返し、取り敢えず洗顔だけは済ませることが叶った。
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