Secret Lover's Night 【連載版】
タオルで顔を拭きながら歩く晴の後ろを、目をキラキラと輝かせた千彩が続く。

ペタペタと音を立てながら歩く千彩を振り返り、晴は両頬を指先で抓んで少し引き伸ばした。

「ねぇ、ねぇ、どこ行く?コンビニ?近い?」
「ちぃは留守番」
「へー!!」
「女の子が下着も着けずに外歩かれへんやろ?」
「むぅー!!」

頬を引き伸ばされたままでは、抗議の言葉も紡げない。ゆっくりと手を離しそのままポンポンと軽く頭を叩くと、不満げに口を尖らせた千彩がむぅっと黙り込み、ソファにドスッと音を立てて腰掛けた。

「朝メシ作るから、スーパー行ってくるわな?」
「・・・」
「鍵かけてくから、誰か来ても開けたあかんで?」
「・・・」
「直ぐ帰るから、ええ子にしててな?」
「…うん」

漸く聞こえた返事に、頬が緩んだ。

いくらなんでも、この状態で外を連れ歩くわけにはいかない。帰ったらネットで取り敢えずの物を揃えてやろう。と思いながら、晴は財布と携帯をポケットに押し込んだ。


「ちぃ、いってらっしゃい、は?」


ふくれっ面で足をバタつかせていた千彩が、ふいっと顔を背ける。退屈凌ぎになれば…と、リモコンに手を伸ばし、晴は滅多に点けることのないTVを点けてやる。

「あー、日曜のアニメやってるわ」
「ちさこれ見てる!行ってらっしゃい!」

アッサリとそう言われ、どうにもアニメキャラクターに負けた感が拭えない。

けれども、ソファの上で膝を抱えてTVに見入る千彩の姿は、それはそれは微笑ましいもので。静かに部屋を出てマンションの階段を降りながら、晴は出掛けに掴んできたキャップを目深に被った。


「何作ろっかなー」


料理は嫌いではない。寧ろ、好きな方だ。越して来る前は、よく当時の恋人を招いて手料理を振る舞った。凝った料理を作るだけに時間はかかったけれど、何より「美味しい!」と笑ってくれることが嬉しかった。

と、そこでまた思考が引っ掛かる。


「あー…リエ。どうするかなー、あれ」


昨夜電話口で泣いていた恋人を思い出すものの、今の状況で「会いたい」などとは到底思えるはずもなく。

寧ろ、面倒なのでこのままそっとしておきたい。

けれど、疑り深い彼女のことだ。放っておいたら何をするかわからない。


「しゃーない…か」


あれ以降放置状態だった携帯の電源を入れてみれば、届くメールも留守電の通知も、見事に恋人の名前で埋め尽くされていて。

ここまでせんでも…と、深いため息と同時に晴はスーパーの自動扉をくぐり抜けた。
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