Secret Lover's Night 【連載版】
そして、漸く大人しく転んでくれた千彩の傍から立ち上がり、リビングへ戻ろうとする晴人の腕を引く。

「ん?」
「傍おったりや」
「いや、お前の方がええんちゃうん?」
「あほか。お兄がええに決まってるやろ」

晴人がいても千彩が智人に向かってグズるのは、何とか晴人の邪魔になるまいと思っているだけで。本当ならば、晴人に甘えに甘えて甘え倒したいはず。

そんな千彩の思いを十二分にわかっている智人は、強引に晴人の腕を引いてその場を譲り、何食わぬ顔でリビングへと戻った。

そこに現れたのが、他人様の家でさも当然の如く夕食をご馳走になり、満足げな表情で缶ビールを手にする親友だった。

「ちーちゃん寝たん?」
「寝たん?ちゃうわ」
「へ?」
「何で余計なことすんねん」
「何が?」
「わかってへんとは言わせへんぞ。あのタイミングでお兄が起きてくるんはおかしいやろ」

ジロリと睨み付けると、悠真は肩を竦めてぺロリと舌を覗かせた。

「可愛くないからな、そんなんしても」
「おかしいなぁ。ファンの子らにはウケんのに」
「何年お前と一緒におると思っとんねん。謝らへんのやったら一発いくぞ」
「はい。すみませんでした。申し訳ございません」

一切感情の入っていない謝罪に、智人はギュッと拳を握り締める。それに慌てたのが、テーブルの上を片付けていた母で。今度はこっちか!と、母の心労は尽きない。

「やめなさいよ?」
「やめなさいよー。ちーちゃんが見たらビックリして泣き出すで」
「お前が言うな、お前が」
「もう…あんた達は…お父さんが帰ってきたら三人纏めて叱ってもらうからね!」
「え?俺も?」
「お兄ちゃんも!」

母の言葉に一番面食らったのは、早々に千彩を寝かせてちょうどリビングに戻って来た晴人で。今のやり取りに自分は関係ないはずだ!と主張しようとするも、いつもと違う母の視線が突き刺さり、それを口に出すことは叶わなかった。
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