Secret Lover's Night 【連載版】
「あっ!にーちゃん聞いてや!智人がなっ!」
「はいはい。わかった、わかった」
「まだ何も言うてへんやん!」
「もうええっちゅーねん。ええ年してギャーギャー言うな。ちぃが起きるやろが。それより智、誕生日プレゼントあるんやけど」
「は?要らんけど」
「まぁそう言うなて」

ゴホンッとわざとらしく咳払いをし、晴人はジーンズのポケットから名刺ケースを取り出して名刺を一枚智人に手渡した。

「お前らのバンドのメジャーデビューが決まったら、ここに電話してこい」
「は?」
「ハル指名で撮影の依頼せぇ。スタイリストはケイ、ヘアメイクはうちの事務所でトップのMEIJI付けたる。何なら、オマケにMARIも付けたるぞ。何やかんやうっさいオマケやけどな」
「やったっ!やったやん、智人!」

手放しで喜ぶ悠真とは逆に、智人は複雑そうな表情を浮かべていて。まだ反発するか…と思いながらも、晴人は自分を見上げる智人の瞳をじっと見つめ返した。

「千彩のこと、お前にはホンマに感謝しとる。今の俺が出来る最大限の礼や」
「いや…そんなん別にええし」
「受け取れや。詫びも込めてんやから」
「は?詫び?」
「玲子のこと。悪かったと思ってるんやぞ、これでも」

大好きだった幼なじみの名を出され、智人の表情は一気に不機嫌へと変わる。黙って名刺を受取り、はしゃぐ悠真を置いてリビングを出た。

そうだ。昔からいつもそうだった。何も言わずとも、晴人は何でも自分のことをわかっている。自分が反発し始めた理由も、背を追わなくなった理由も、晴人にならばわかっているはずだ。そう思うと、とてもではないが晴人と顔を突き合わせて酒を飲める心境ではなかった。

パタンと扉を閉め、誰も追って来ないことを願いながら、智人は二階へと続く階段を踏みしめた。いつだって晴人には勝てない。その思いばかりが、智人の胸を締め付けた。


ベッドにうつ伏せに飛び込み、智人は枕に顔を押し付けて腹の底から声を張り上げた。そうすることで、湧き上がってくる感情を抑え付けようと必死に努力する。涙は出ない。それはもう、何年も前に出し尽くしたから。
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