Secret Lover's Night 【連載版】
晴人から預かった鍵で玄関の扉を開け、恵介はうきうきとしながら三木家へ足を踏み入れた。

どうせ千彩のことだから「ちょっとお昼寝…」とか言いながら、そのまま寝入ってしまっているのだ。そう思っていた楽天家の恵介は、晴人がいない間に千彩を買い物に連れ出そうと思っていたのだ。


「ちーちゃーん。あれ?ちーちゃーん?」


居るだろうと思っていたベッドルームにも、リビングにも、その隣の部屋にも千彩の姿はない。バスルームもトイレも確認し、キッチンを隅々まで確認して恵介は漸くこの家の異変に気付いた。


「なぁ、ちーちゃんは?」


ソファの上で千彩の帰りを待つ千彩の親友。誰が話しかけたとて、彼はぬいぐるみなので会話は叶わない。


「お菓子でも買いに行った?いや、でもなー…」


どこか…いや、抜けまくっている千彩のことだから、いくら晴人にキツく言い付けられていたとて携帯を忘れて出かけることはあり得る。

けれど、買い物に行くのに財布を置いて出るだろうか。

どこかのおっちょこちょいな主婦じゃあるまいし…と、アニメのキャラクターを思い浮かべながら、恵介は誕生日に自分がプレゼントした千彩の財布をじっと見つめた。

ふと見遣れば、開きっぱなしになった窓から風が入り、レースのカーテンがひらひらと揺れ動いている。中腰になって恐る恐るバルコニーを覗くと、数時間前に干しただろう洗濯物が風に揺れていた。


「んー…誘拐?」


端的な恵介の思考は、意外と的を得ていた。まさかなーとわざと大きめの声を出し、ピタリと動きを止めて恵介は考えた。


「泥棒?」


バタバタと慌ててリビングから隣の部屋に移り、部屋の中をぐるりと見渡す。パソコン、カメラ、プリンター。目に付く電気機器は全てある。一通り確認し、部屋を移す。

クローゼットを開くと、びっしりと詰まった晴人と千彩の洋服と小物。自分の知る限り、高価な物、主に晴人のアクセサリー類は全てある。クローゼットの奥にしまい込んである現金入りの箱も、無造作に棚に置かれている通帳もある。


おそらく、この家から無くなっているのは、晴人が最も大切にしているモノだけだろう。


いくら千彩に負けず劣らず呑気な恵介だとて、それが頭に過るといつまでもヘラヘラと笑ってはいられない。震える手で携帯を取り出し、ゴクリと一度喉を鳴らして晴人にコールした。
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