Secret Lover's Night 【連載版】
テーブルの並べられた美味しそうな料理に、千彩の目がとびきり輝く。

どうぞ、と促されていただきます!と手を合わせるも、並んだいくつものフォークとスプーンに千彩は首を傾げた。

「どうしたの?千彩ちゃん」
「これ、何でこんなにいっぱいあるん?ちさどれ使ったらいい?」
「どれでもいいよ」
「どれでも?」
「うん」

お許しが出たところで…と、一番手頃なサイズの物を選び、千彩は料理を口に運んだ。途端に緩む頬の筋肉。美味しい!と、言葉に出さなくとも表情が十分に伝えていた。

「美味しい?」
「うん!」
「良かった」

晴人には申し訳ないけれど、晴人の作る料理よりもずっと美味しい。いや、晴人の作る料理は千彩にとって最高の味なのだ。けれど、これは最高を超えた最高。それを何と言うんだろう…と、ボキャブラリーの少ない千彩は悩んだ。


「最高より最高。ん?だったらこれが最高で、はるは二番?ううん。はるは一番。でも…」


ぶつぶつと言いながら一人で悩む千彩に、渚がふっと笑い声を零す。

「それを食べ終えたら、僕と一緒に散歩しよう」
「お散歩?」
「うん。この屋敷の中には、ローズガーデンがあるんだよ」
「ろーずがーでん?」
「そう。綺麗なお花畑」
「わー!すごい!」

さすが千彩と言うべきか。美味しい料理を食べながらあとでお花畑に連れて行ってもらえると聞いて、置かれた状況など眼中にないほどすっかり上機嫌だ。

「デザートは何がいい?」
「ちさプリン!」
「時雨、すぐにプリンを」
「はい。畏まりました、旦那様」

悪びれもなく大好物を要求する千彩は、自分が公園から連れ去られたことなどすっかり忘れてしまっている。

勿論、泣きながら千彩を探して走り回る恵介や、同じく泣きながら震えて千彩の帰りを待つ晴人、そして慌てて事務所から駆けつけ、晴人の傍に寄り添うメーシーやマリの様子など知りもしない。

豪華な内装に豪勢な食事。普段の生活からは考えられない体験に、好奇心旺盛な千彩は浮かれていた。
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