Secret Lover's Night 【連載版】
ドーム状になった温室の中央には、アンティークのテーブルセットの置かれたパティオがある。そこから放射線状に延びる通路の両側には、季節に関係無く見事に薔薇が咲き誇っている。

見る人が見れば長い感嘆の息を漏らすだろうローズガーデンも、千彩の手にかかれば大きなお花畑だ。無邪気に駆け回りながら、ついでに観賞。その程度のものになってしまう。

「なぎさー、これ取っていい?」
「千彩様っ!それはっ!」

千彩が手にしたのは、赤よりもっと深い真紅の薔薇。他のものよりも随分と大振りなそれを見て、千彩はある人物の顔を思い浮かべていた。

「これ、マリちゃんにあげたい」
「マリちゃん?」
「うん!このお花、マリちゃんそっくり!」

他よりも目立つ大振りな真紅の薔薇は、いくつもの雑誌の表紙を飾るマリの姿のようで。これをマリが持って、晴人がカメラを構える。絶対にいい写真が撮れる!そう思うと、千彩は自然と笑顔になった。

「いいよ。時雨、切ってあげて」
「しかしっ、旦那様っ…」
「いいんだ。早く」
「・・・畏まりました」

渋々了承しハサミを手に取った時雨に、千彩は大きく首を傾げ、薔薇と時雨の間で何度か視線を往復させた。

「やっぱりいい」
「は?」
「いいよ、いいよ。今のナシ!」
「いいんだよ?千彩ちゃん」
「ううん。切っちゃったらお花がかわいそうやもんね!」

ぶんぶんと首を振りながら両手を胸の前でクロスさせてバツを作る千彩は、戸惑う時雨を渚の元へと追い遣り天井を見上げた。
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