Secret Lover's Night 【連載版】
「これ、千彩に渡しとくから」
「…ふんっ」
「俺の気が向いたらまた連れて来たるわ」
「…ロリコン」
「何とでも言え。あれは俺の嫁さんや。お前にはやらん」

やっと胸を張ってそう言えた。それが晴人には嬉しくて。吉村の引き止める声に後ろ手で手を振りながら扉を押し開け、その場を後にした。

これでいい。後は何とかしてくれるだろう。と、義理の父に期待を込めて。

「もしもーし、ちぃ?」
『はるー!どうしたん?』
「恵介もう出た?」
『ううん。まだおるよ』
「ほな、恵介に服選んでもろて、一緒に事務所おいで」

屋敷を出ると、スッキリと晴れた空が広がっている。バラの花束を片手に門を出た晴人は、黒塗りの高級車の中で待機する男に一度ペコリと頭をさげ、足取り重く歩いてきた道を、何倍もの軽さで歩く。

「智人と悠真も連れておいで」
『わかったー。何するん?』
「皆で写真撮ろか」
『はるが撮るん?』
「せやで。俺がちぃを世界一可愛く撮ったるわ」

携帯を片手に愛しい人の声を聞きながら青空を見上げ、晴人は思う。この広い空の下、11歳も年下の千彩と出会い、こうして恋に落ちたのは奇跡に近い、と。いくつもの偶然が重なって生まれた奇跡。だからこそ、こんなにも愛おしい。

「大好きやで、千彩」
『ちさもー!』

何の躊躇いも無く返してくれるのは、無邪気で無防備な天使。だからこそ、傷付けないように守らなければならないのだ。惜しみ無く愛情を注いで、手にした幸せが壊れてしまわないように。それがたとえ行き過ぎた愛情だと非難されようが、誰かに壊されてしまうよりマシだ。そう開き直ることで気持ちの整理がついた。

「幸せやなぁ、ちぃ」
『うん!幸せ!』

こうして、どこにも飛び立たず、生涯自分の傍で笑っていてくれるのならば、何を犠牲にしようが厭わない。青空を見上げ、改めてそんなことを思った日。



漸く、長い一日が終わった気がした。
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