Secret Lover's Night 【連載版】
「もう帰ってええ?」
「彼女?どこのモデル?」
「どこのモデルでもないわ。普通の子。しかも、彼女やなくて嫁さん」

結婚するのはまだ先だけど。と呑み込み、ジーンズのポケットから携帯を取り出し掲げると、うっとりと細まっていたはずの目が大きく見開いた。

「い…妹?」
「言うと思った。嫁さん」
「え?え?ハルってそうゆう趣味?」

パタンと携帯を閉じ腰を浮かせると、細い指が絡む。この手の誘惑は飽きるほどされてきた晴人が、今更それに乗るはずはない。


「ガキ相手じゃ、満足出来てないんじゃない?」


まだやるか…とは思うのだけれど、言ってしまえば更に食い下がられるのは必至。懸命にそれを飲み込み、アルコールが入って少し鈍くなった頭を無理やり回転させ、腰を浮かせたままの状態で顔を近付けた。


「お前が俺を満足させてくれんのか?」


そう言って妖しく笑えば、あとは部屋に移動するだけ。今までそうやって女を抱いてきた。

「なんてな。またな、レンちゃん」
「ハル!」
「残念ながら、俺は嫁さんで十分満足しとるんやわ。満足どころか、余るくらいな」

それでも食い下がろうとする女の頭をくしゃりと撫で、晴人はポケットから財布を取り出して掲げた。

「次は奢ってもらうからなー」

振り返りもせず、支払いを済ませて店を出る。まずは恵介に電話か。そう思い開いた携帯に視線を落とすと、視界の隅に信じられない人物の姿が入り込んで来た。

「えっ!?お前何してんねん!」

慌てて顔を上げると、そこにはパジャマ姿の千彩が居て。袖口でゴシゴシと目を擦り、どうやら涙を拭っているようだった。

「千彩っ!」
「ハルっ!」

晴人が駆け寄ろうとしたのと、ガシッと腕が掴まれたのはほぼ同時だった。
< 352 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop