Secret Lover's Night 【連載版】
「ナンバーワンになろう言うたやん。二人でナンバーワンになろって。その約束、俺は果たしたつもりやったんやけど」


大反対だった恵介の両親。それを説き伏せるのに、二人で約束した。必ず二人でナンバーワンになってみせるから、と。道は違ってしまったけれど、二人とも今や青山事務所には欠かせぬ存在。どちらともが「俺がナンバーワンだ」と胸を張って言える立場に立っている。

「俺が…東京行こうって言わんかったら…」
「こっち来てなかったら…せやな。俺は今頃、関西ナンバーワンのデザイナーやったかもな」
「そうやなくてっ」
「千彩と出会うこともなく、本物の愛情ってもんを知らんままやったんやろな。寂しい男や」

そうじゃない。
そんなことが聞きたいわけではない。

言いたいのに、言えない。そんなもどかしさにギュッと目を瞑って下を向くと、ふわりと優しい手が頬に触れた。

「俺はお前が好きや。これでもな、ずっとお前とパートナーとしてやってきたいと思ってるんやぞ」
「せー・・・と」
「俺と玲子のことでお前が苦しんどるんやったら、いっぺんあっち戻って玲子と話してもええ。それでお前が楽になるんやったらな」

潤んだ瞳に映る晴人の表情は、とても柔らかく、けれど悲しげで。そうしてしまったのは自分だ。そう思えば思うほど、恵介の胸は痛みを訴えた。

「ちゃう…ちゃうんや。そうやないねん。お前を追い詰めたいわけやないねん」
「わかっとる。全部わかっとるから心配すんな。あとは俺がちゃんとするから」
「ちゃうんやって!ちゃうねん・・・」

伝えたい言葉は沢山ある。けれど、そのどれもが晴人を傷付けてしまいそうで。


あの時と同じだ。


若気の至りで背負ってしまった罪が、余計に恵介の思考を重くした。

「お前が専門行こう言うてくれんかったら、俺はきっと大学行って普通のサラリーマンしてたやろな。それか、親父の店継いで…もしかしたら、吉村さんには出会うてたかもな。な?」
「せーと…ごめん」
「玲子とはずっとあのまんまで…千彩は…どうなっとったやろな」

あの日、あの場所で出会わなければ。そう思うだけで、晴人の胸は呼吸が止まりそうなほど締め付けられる。

もはや千彩の居ない生活など忘れてしまった。いつでも千彩が思考の中心で、千彩が存在しない世界など想像したくもない。学生時代の変な意地など、もう微塵も残ってはいない。

「お前には感謝しとる。りんのことも玲子のことも、結局フォローしてくれたんはお前やからな」
「俺は・・・」
「千彩のこともそうや。お前がこっちに連れて来てくれんかったら、俺と千彩は出会ってなかった」
「俺・・・」

言葉を詰まらせた恵介に、晴人はニッと笑って続けた。


「俺ら、親友なんやろ?」


学生時代から、恵介が拘ってきた言葉。無条件で信頼し、助け合い、わかりあえる唯一無二の友。拘り続けた言葉が、こんなにも温かく感じるなんて。ドッと溢れた涙は、ついさっきまでの「苦しみ」とは違うものだった。

「俺ら…親友やで」
「やろ?だったらもうええやん。男の涙ほど鬱陶しいもんはないぞ。もう泣くな」
「・・・ごめん」
「ゴメンも無しや。飲もうや。千彩おらんし、今日はゆっくり飲めるぞ」

いつもならば、3本目の缶を空けている途中で千彩からのストップがかかる。それで素直に切り上げてしまうあたり、千彩には弱いと痛感する。同時に、幸せを実感する時でもある。

「玲子にな、いっぺん電話してこい言うといて」
「いや、でも…」
「千彩のことも紹介したいし、それに…」

智人とどうなっているのかも知りたい。

言わずに呑み込み、開けたばかりのビールを煽る。


これで一件落着だ。

晴人も恵介も、そう思っていた。
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