Secret Lover's Night 【連載版】
「仕事、もう片付いてるんやろ?」
「おぉ。まぁな」
「明日、ちーちゃんは俺が連れてくわ」
「せやなぁ…」

千彩が負担なわけではない。寧ろ癒しだと思っている。

けれど、どうにも取れないつかえが苦しくて。

このままだと本当によからぬ事をしてしまう。と、ゆるく動く頭でそう判断し、恵介に任せることにした。

「なぁ、晴人」
「んー?」
「ちーちゃんどうする気なん?」

服を持って来てもらう際に、恵介にはどういった経緯で家に連れて来たかを簡単ではあるが話した。けれど、この先どうするかは話していなくて。

実際晴人も決めていないのだから、話すも何もないのだけれど。

「どうするんやろな、俺」
「家族とかおらんの?」
「おらん…と、思う」

少なくともこっちにはな。と付け足し、瓶に手を伸ばす。それを制され、代わりにミネラルウォーターの入ったペットボトルを渡された。

「ちょっと休憩しようや」
「…ん」

体を起こされ、グラリと目の前が揺れる。相当体の中を回っているだろうアルコールに、普段ならば感じる心地好さは微塵も感じなかった。

「なぁ、晴人」
「んー?」
「ちーちゃん、泣いてたで」
「おぉ、やろうな」

酔って回転の鈍くなった頭でも、それは容易に想像がつく。甘えん坊の千彩のことだから、恵介に髪を乾かされながらさぞぐずったことだろう。

そんなことを思いながらドサッと背凭れに身を預けると、早々に隣に陣取っていたメーシーが晴人の顔を覗き込む。

「王子?」
「んー?」
「あの子、ここに住んでんの?」
「おぉ。ちょっと事情があって…」

ふぅん。とさしたる興味もなさげに流すメーシーは、くるりとリビングを見回していて。女の子と一緒に住んでるわりには愛想の欠片も無い部屋だな。と思い、あぁ、二晩って言ってたっけ…と思い直す。

「それにしても可愛いよね、姫」
「せやからメーシー、ちーちゃんは晴人のやって…」
「わかってるっつってんじゃん。そうゆうのじゃなくてさ」
「メーシー怖いからなぁ」

特別前科があるわけではないのだけれど、メーシーのフェミニスト具合はモデルにも抜群の人気を誇っていて。相手が「晴人大好きの千彩」だけに考え難いけれど、恵介にはどうにもそれが不安でならなかった。
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