Secret Lover's Night 【連載版】
ずぶ濡れの少女に無言で手を引かれ、傘を差した男がメイン通りを横断する。

そんな異様な光景が、出会いから数分も経たないうちに大都会の歓楽街で繰り広げられた。

この街ならではの「無関心主義」が、混み合うメイン通りを俯いて横切るハルの羞恥心を幾ばくか和らげる。


そんな心情を微塵も汲むことなく、サナはびしょ濡れのまま早足に手を引く。ふと足元を見遣れば、汚れた素足が目に入った。

「ちょ、サナちゃん裸足やん」

手を引くも、サナが立ち止まる気配はない。それどころか、余計に速度が速まった感じさえする。

諦めて溜息を呑み込み、ハルはただ黙々とその後を追った。


いつしか雨は止み、邪魔になった傘は手放していた。


「ここ」


漸く立ち止まったサナがボソリと呟く。

ビルを見上げるサナに釣られ見上げたものの、あまりの不気味さにハルは身震いを隠せなかった。

いかにも「ナニカ」が出てきそうな、明かりの一つも灯っていないビル。あの世のモノでも、この世のモノでも、とにかく恐ろしい「ナニカ」が出てきそうなそんなビルに、ハルの整った眉が少し寄る。

しかめっ面で躊躇うハルに、サナは言った。

「ここ、お家」

こんなところが?と言いたげに首を傾げるハルの手を離し、サナは扉を押し開く。予想と寸分たがわぬギィィという重苦しい音を立て開く扉に、眉根がまた少し寄った。

知らぬ顔をし、サナは扉の向こう側へと姿を消してゆく。

「あぁ!待って、サナちゃん」
「こっち。手、」

ビルの内部に入ると、それはまさしく「暗闇」で。手を引かれながら覚束無い足取りで暗闇を進み、ハルはサナの手と手すりを頼りに階段を上った。
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