Secret Lover's Night 【連載版】

 君は僕の宝物

バルコニーから大きく手を振る千彩を見上げ、同じように手を振って車に乗り込む。エンジンをかけ、エアコンはつけずに窓を全開にした。

最初の角を曲がるまで、千彩は見送っている。それをバックミラーで確認して、ゆっくりとハンドルを切った。


「今日は…はよ帰れるかな」


慣れた道のりを走りながら、一つ、二つとカーブを曲がる。

昨日はモデルが機嫌を損ねて少し遅くなり、寂しい思いをさせてしまった。それにあらぬ疑いをかけられるようなことは無いけれど、ソファで膝を抱えて待っていただろう姿が容易に想像でき、胸がチクリと痛んだ。

退屈しないように早々にアニメチャンネルを手配し、無音に近かった部屋は千彩が起きてから眠るまでの間はアニメソングが流れるようになった。エプロンが仕上がった際に、簡単な料理本も買い与えてやった。

おかげで、ランチはお手製のお弁当が持たされる。そして、ポータブルゲーム機とそのソフト、ピース数のやたら多いパズルや絵本などは、友人達からプレゼントされた。


「でもなー…」


やはり所長が言うようにモデルにしてしまおうか…と、千彩に甘い晴人はそう思ってしまう。寂しい思いは極力させたくない。専属モデルにしてしまえば、ずっと一緒にいることが叶う。


けれど、自分だけのものにしておきたい。


そんな矛盾に頭を悩ませながら駐車場に車を停め、チカチカとランプが光る携帯を開く。


<お仕事がんばってねー!>


その一行のメールで、今日も朝から上機嫌だ。階段を上りながら、少しずつ窓を開いていく。夏の朝のまだ涼しい風が、晴人の頬を撫でた。


「ええ風や。今日も暑くなりそうやな」


ビルの合間から顔を覗かせる太陽を見上げ、伸びた髪を掻き上げる。前髪をちょいと摘み、日の光りに透かしてみた。
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