Secret Lover's Night 【連載版】
テーブルに広げられたのは、とある香水の販促広告で。両手を広げて満面の笑みを見せるそのモデルは、間違いなく千彩だ。自分が撮ったものだから、見間違うはずがない。


「なん…で?」


そのまま言葉を失った晴人の代わりに、うーんと唸りながら顎に手を添えるメーシーが言葉を続けた。

「うーん。吉村さんはこのモデルさんに会うためにここへ?」
「そうなんですわ。すぐあっちゃこっちゃ問い合わせしたんですが、どこにもわからん言われまして。やっとこの事務所に行き着いた思うたら、モデルはわからんから撮ったカメラマンに訊いてくれってここの住所教えてもろたんです。お願いしますわ、ハルさん」
「ふふっ。そこまで熱心に追い掛ける人も珍しいですけどね。一目惚れしちゃったとか?」

いい年してるだろうに…と、出かかった言葉を、メーシーは慌てて呑み込む。変に刺激して、ここで暴れられたらたまったもんじゃない、と。


「いや、実は…これ、僕の娘ちゃうかと思うて…」


男の言葉に、さすがに呑み込みきれなかった言葉が零れた。

「娘って…吉村さん、失礼ですがおいくつですか?僕の目には、僕らと差ほど変わらないように見えるんですけど」
「今年35になります」
「35…ねぇ」

千彩の年齢が今年18になるとしても、まぁ、計算上おかしくはならない。随分と早いうちに出来た子だな、というくらいだ。

「この子、安西千彩ゆうんちゃいますか?千を彩るって書いてチサ。せやったら俺の娘なんですわ」


アンザイ チサ


フルネームに聞き覚えはないけれど、千彩という名前には二人とも十二分に聞き覚えがある。そして晴人には、その字を説明するその言葉にも聞き覚えがあった。

「千彩の…父親?」


混乱する頭で、やっとの思いで言葉を送り出す。千彩の身の上話は恵介伝いにしか聞いていないけれど、その中に「父親」という単語は出てこなかった。それに、吉村と安西では苗字が違う。

不信感を募らせるけれど、千彩の父親だと言うその男の目は真っ直ぐで。とても嘘を吐いているようには思えなかった。


「千彩、今どこに居るんですか?元気にしてますか?」


吉村の太い声が、途端に弱々しくなる。本気で心配しているだろう吉村の言葉に答えようと晴人が口を開きかけた時扉がノックされ、遠慮気味に開かれたそこから恵介が顔を出した。
< 94 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop