灯火-ともしび-
* * *


「ただいまー。」

「お姉ちゃん!」

「…な、なに?」


帰宅するや否や、待ってましたとばかりに我が妹、小夏(コナツ)が飛び出してきた。
間違った方向にやや暴走癖のある、しかし根は素直な可愛い妹。


「浴衣どうしよう!」

「…好きにすれば?」

「だって、可愛いのいっぱいあるし…流馬(リュウマ)くんにどれが喜んでもらえるかなって考えたら…決まらなくてっ…。」


ますます『知るか!』である。
勝手にすればいい。
だがそんなことをストレートに言えば瞳に涙を溜め、私を見るということを知っている。…だから言わない。


「だって、付き合い始めたばっかりでしょ?
別にどんなの着てたって向こうはあんたのこと可愛くてしゃーないって…。」


今まで相談されてきた経験を総動員して答える。
先に言っておくが私は自分の恋愛経験というものがほとんどない。
はっきり言って必要がない。私は自分に投資がしたい。時間も精神も。
誰かにかまけている暇など全くない。


つまり、私の答えは自分の経験を踏まえていない。
それなのに何故か皆、私の意見をそれなりに素直に受け取ってくれる。
…良し悪しだろうが、そこまでの責任は持てない、よ?


「そ…うかなぁ…。」

「まぁ、私はその…りゅうまくん、だっけ、を知らないから断言できないけど、そういうものじゃないの?」

「……。」


まだぐるぐると悩んでいるようだ。
こういう子が一般的に男子にモテるのだろう。
そんなことを思いながら観察する。

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