私の恋人は布団です。
青年は不思議そうな顔でベッドに座っている。
延は四つん這いのままで,携帯電話を手に取った。
「ちょっと!朝っぱらから何大きな音立ててるの!?」
何とか1,1,0と数字ボタンを押し,発信ボタンをプッシュしようと思ったその時,階段の方から母親の声が聞こえた。
しかも,階段をタン,タンと上ってくる足音が延をいよいよパニックに陥らせた。
「延さんのお母さんですか?それじゃあ,俺も挨拶しないと……」
ウキウキした様子で,青年はドアの方に歩いて行った。
今の台詞には,軽く語尾にハートマークが3つほど付いていそうだった。
「ちょっと待ちなさい……!!」
延は,捨て身のタックルで青年を止めた。
そして,抵抗も見せない彼の口を両手で塞ぐ。
「ご,ごめんなさい!!ちょっと寝惚けてベッドから落ちちゃって!!直ぐ着替えて下に行くから!」
延は,咄嗟に思いついた言い訳を叫んだ。
すると,延の母親は不機嫌そうに「早くしなさいよ」と小言を残して,居間に戻って行った。