私の恋人は布団です。

 修一は,唇に指を重ねて笑いを堪えた。

「……じゃあ“強引に”誘ってみたら?」

「そ,そうですね……でも,冷たくって言うのはどうしましょう……」

「素っ気無い態度を取るとか?」

「……素っ気無い態度,ですか」

「あ,ほら。此処にも乗ってるよ。“押してばかりではなく引く技術も大事です”って」

(今,初めて読んだけどね)

「はぁ……難しいですね……」

 隆也は腕を組みながら低く唸った。

「つまり,強引にデートに誘って,素っ気無い態度を取ると……」

「そうだね」

(そんな男は確実に嫌われると思うけど……少なくともあの子には逆効果のような……)

「分かりました!俺,やってみます!」

「うん。頑張って」

 修一は極上の慈悲深いような微笑を隆也に向けた。


(頑張ってこっ酷く嫌われておいで……)


 修一のドス黒い思惑にも気付かず,隆也は気合のガッツポーズを高々と決めていた。
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