あおぞらカルテ
「そらくん?どうしたの?」


甘い声が聞こえた。

そうだ、里香とデート中だった。


「初日で疲れたんじゃない?」

「んー、いろいろとね」

「聞いたよ~?指導医、大屋先生なんだって?」

「なんでICUの里香が知ってんの」

「女子の情報網をなめないでよっ」


里香は大学病院に勤める3年目の看護師。

大学時代から付き合って4年になる。

そろそろ結婚…とか考えてるけど、今はまだ医者の生活に慣れることが優先。


「大屋先生ってさ、とっつきにくい感じするけど、案外いい先生だと思うよ」

「ホントかよ~?超!超無愛想!」

「でも観察眼が鋭いからか、患者さんに合わせて使い分けてるし」


つーことは、オレも使い分けられてんのか?

研修医ごときは無愛想でいいってことか?


「そらくんもさ、もうちょっと観察眼を持った方がいいよ」

「え~?」

「私が髪切っても全然気付かないでしょ」

「いや、それは…」

「大屋先生は気付くよ。“波多野さん、髪切りましたか?”って」

「なんだよそれ!?里香、そんなこと言われてんの!?」


病院の中で、愛する彼女が他の男に声をかけられているなんて…

ていうか、それがあの無愛想な大屋先生だなんて…

考えもしなかった。
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