あおぞらカルテ
「さて、道重先生」


廊下に出た瞬間、また大屋先生は口を開いた。


「今日からキミの受け持ちです。どう説明し、どう解決策を出すか、自分なりにやってみてください。困った時には私がフォローしますから」

「え、えぇぇぇ!?」


こんなの押しつけじゃないか!?

やっかいな患者を研修医に押しつけるなんて…。


「健闘を祈ります」


そう言った大屋先生の表情は、今までで見たことがないくらい輝いていた。

医者になって1日目。

もう大きな壁にぶち当たっていた。

ホクホクした顔で去っていく大屋先生の背中を遠く見つめながら、オレの心はブラックホールに吸い込まれていくみたいだった。




昼休憩。

職員食堂のテーブルでは、同期の研修医の報告会が開かれていた。

同じ循環器内科だっていうのに、なんでこうも違うのか!?

オレ以外のヤツらは賑やかにしゃべっている。


「朝からカテ室でレクチャーしてもらったよ」

「マジ!?いいなぁ~」

「神野先生、カテーテル治療のスペシャリストだもんな」

「知ってる!この前ゴッドハンド特集みたいなのでTVに出てた」

「お前はどうよ?ペースメーカーのオペ入ったんだろ?」

「電池交換だけどね」

「いいじゃん、オレなんてひたすらトレッドミルだぞー?」


半日しか経ってないのに、この差はなんだよ!?

軽く苛立ちを覚える。


「で、そらは?」

「治療拒否のブルガダ」

「ん?なにそれ?」


明らかにテンション違うじゃんっ!

治療拒否ってなんだよ!?

循環器内科らしいこと、なんもないじゃん。


「そういやさ、そらの親父さんと会ったよ、オペ室で」

「やべーよな!この前の学会のライブ!かっこよかったー」


学会でライブ中継されたオペ。

決して早くはないけど、丁寧で確実、的確な手技。

自分の父親だとは思えないくらいだった。

家ではタマネギのみじん切りもできないくせに…やっぱり偉大だ。
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