あおぞらカルテ
タクシーの中では落ち着かなかった。

はるとくんの話が本当なら、今頃どうなっているんだろうって。

階段から落ちたのは、本当だった。

それに、母親の虐待でもなかった。

でも、いじめじゃなかった。

“いじめられている”と言うように強要したのは、母親ではなく、父親だった。

たび重なる暴力を受けていたのは主に母親で、はるとくんは母親をかばおうとして階段から落ちたんだった。

驚いた母親は急いで救命センターを受診させた。

結果、家庭内暴力がバレるのを恐れた父親は、母親を連れ去ったと思われる。


「お父さんに殴られたりすんの?」

「…ときどき。でも、いつもお母さんが守ってくれるんだ」


母親って強いなぁ。

それに、はるとくんも。

一番弱っちいのは父親じゃないか。

はるとくんの家は閑静な住宅街にあった。

数年前に建てたのだろう、キレイな一戸建てからは想像できない、家庭内の事情。

タクシーを降りると、聞こえて来たのはどなり声。

何を言ってるのかはわからないけど、父親の声みたいだった。

インターホンを押して叫ぶ。


「谷中さん!!開けてください!!」
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