君と杯を交わそう ~契約婚から築く愛~
そして、翌日。杏莉の家に来た真司はスーツをきちっと着た格好で現れた。


「おはよう」
「おはようございます。スーツですか」
「うん。やっぱり挨拶って言ったらコレしか思いつかなくて」
「……とりあえず、入って下さい」
「あ、うん。ありがとう」


中に入ると、お茶と共に昨日の服を差し出された。


「着替えて下さい」
「でも……」
「着替えて下さい。直接会うことは出来ませんから」
「どういうこと?」


ずっと、気になっていた。杏莉の心に何かがあることも、それが何であるか。



「……先に着替えて下さい。向こうで」
「うん」


着替えを持って、隣の部屋に向かう。そこに立てられていた二枚の写真と一枚の写真を見つめる。


「杏莉ちゃん。着替え終わったよ」
「あ、はい。すみません」
「いや、もしかしてこの写真、御両親?」
「はい。あの、真司さん」
「ん?」
「私の両親は……三年前に亡くなりました。交通事故でした」
「交通事故……」
「はい。父は即死、母は2日後、そして、祖母は今施設にいます」
「おばあさんは御健在なんだ」
「はい。それで、挨拶なんですが……」
「この世にいなくても挨拶したい。だからお墓に連れて行ってくれないかな」
「わかりました」



部屋に立てられている写真は幸せそうな笑顔で写る杏莉と御両親。二十歳にも満たない彼女の心に闇は深く根付いているのではないだろうか。
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