薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~


結斗様を触れると、普段から冷たい結斗様の体温はさらに冷たい。それが現実だと表し、どうにもできない現実を知らしめる。


流れていく血が結斗様の体温を奪っているのだ。生温かい血液が結斗様の命を奪っているのだ。


止めなければならない。滑りしか感じない彼の血液を止めねば。


気は引けるが、母から貰った狩り用の闇にとける黒着物の袖を引き裂く。


布であれば最低限の応急処置はできる。止血という処置が。


妖によって開いた穴を塞ごうとした時、咆哮が響いた。それは妖存在を知らない人々には聞こえない。が、私には聞こえる。


忘れていた。まだ妖は倒れてはいないのだ。結斗様の命を懸けた一撃は効いているだろうが、まだまだ暴れる力はある。


これはまずい。このままでは結斗様を止血できたとしても、再び攻撃される可能性だってある。


しかし結斗様が適わぬ相手に勝てるわけなどない。此処でタイミングよく櫻澤最強の当主様が現れれば良いが、そんな奇跡に近いことが起こる筈もない。嗚呼、終わりだ。
< 125 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop