薄紅の花 ~交錯する思いは花弁となり散って逝く~
その様を見ていたものだが居た。それは櫻澤家当主である。




孫である櫻澤紅華の色だと定められた最後の花弁は儚く散り、燃えてしまった。



「逝ってしまったのですね、我が息子は」



出て行って一度も帰ってくることがなく、これからも帰らぬであろうと思い込んでいた故に驚きを隠せない。まさか死ぬ前に息子の顔を見えるなんて。その後ろには今では櫻藤を名乗る義理の娘も後ろに付き添っている。



「幸せに逝ったのでしょうね、紅華は。なんたっていつもいつも笑っていましたから、幸せになれぬはずがありません。これからはきっと愛しい結斗にも幸せを分け与えてくれるでしょうね」



会うことがあったならば血圧が上がっても良いから、幼い頃より親の愛を知らぬまま育った結斗の為にも叱り飛ばそうと思っていたが……やめておこう。このバカ夫婦は自分の意思ではあるが、誰よりも孫である結斗の成長を傍で見たかったであろうから。それに今の2人の表情は父母が息子へ何らかの感情を抱くときに浮かべる表情それである。叱り飛ばすのは今度でも構うまい。今度顔を見せたなら、しっかりと叱り飛ばしてやろうと心に決め、2人と同じように遠き山にいる我が孫のことを思い、桜を眺めた。
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