シャクジの森で〜番外編〜
そう問いかけると、潤んだ瞳がこちらを無言のまま見上げた。

尖らせてる唇は「あなたは、そんなこともわからないの?」とでも言っているようだ。


―――すまぬ・・・分からぬ。

困ったものだ・・愛しい妻の心のうちも理解出来ぬとは・・・。

どうしたものか――――――










―――――部屋の中でアランが自らの所業を深く反省し、生まれて初めての事態に動揺しつつも、解決の糸口を探している頃。

廊下では料理長が自らの判断の甘さを反省していた。



―――これで良かったんだろうか。

私はとんでもないミスを犯した気がする。

朝食を運ぶのを手伝った後、嬉しそうに微笑んだエミリー様。

今朝遅くにキッチンに来られて


“時間のかからない簡単なものを作らせて欲しいの。ダメですか?”


と言われたときには驚いて一度はお断りしたが


“お願い”


と可愛らしく何度も手を合わされては、もう負けてしまう。

怪我するのでは・・等の心配をよそに、故郷の生活で慣れておられるのか、見てる間にぱぱっと作られた。



・・・しかし、食堂に来るのが遅いと思ってはいたが、まさか、アラン様がまだ目覚められてないとは思わなかったなぁ。

こっそりと音を立てずに、部屋の中に運ぶのを手伝ってたとき、部屋の空気がピリピリとしていた。

あれは・・・アラン様の殺気じゃないか?

だとしたらかなりヤバイのでは・・・。


料理長の脳裏に、数年前の出来事が鮮明に思い返される。

部屋の中で倒れていた警備兵。

腕はぽっきりと折れていて、振り下ろされた剣が頭の横に突きたてられていた。

思い出すだけでぶるぶると震えてしまう。



―――しまったなぁ・・・迂闊だった。

止めれば良かった―――




“許可なく触れる者は、如何なる者であろうと、すべて皆賊とみなす”




頭の中では昔聞いた言葉が木霊のように響いている。

どんどん不安になって行く料理長。

そわそわと大きなお腹を揺らし、廊下を行ったり来たり。

白い扉に耳を近付けては溜め息を吐いていた。


その尋常でない様子が気になったのか、シリウスが肉厚な肩をポンと叩いた。



「料理長殿、どうしかしたのですか?」


「あぁ・・・貴方はエミリー様の護衛のシリウス様・・・実は今・・・」
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