シャクジの森で〜番外編〜
「・・・エミリー、留守中に大事はなかったか?」

「はい。何も・・・サリーさんと、とても楽しくすごせたわ。あのとき頼んだ木彫りのスプーンとフォークも持ってきてくださって、それがとても可愛いの」



彼女が話すのをアランは何とも甘い眼差しで見つめ、当たり前のように手が自然に動いてゆき、薔薇色の頬にそっと触れる。



「えっと・・・あの、アラン様にお話したいことがたくさん出来たわ」

「―――そうか、良かったな。後程にゆっくりと聞くゆえ、楽しみにしておる。・・すまぬが、夕食まで今少し待っていてくれるか?少々用を済ませてから参るゆえ」

「はい。アラン様、おまちして―――っ・・ぁ・・」



素直に頷く彼女の身体をくいっと引き寄せてマントの中に収めると、アランはふんわりとした髪に顔を寄せた。

いつもの光景だが、私にはそれが存在を確かめているように思えるのは、あんな事があったせいだろうな。



「冷たいな・・・。このまま温めながら連れて参るところだが、そうもいかないな・・・。君は、部屋に戻っているが良い―――シリウス」



マントを脱いで彼女をすっぽりと包み込み、そっと背中を押すアラン。

マントの裾が引き摺るのを気にしつつ、シリウスと一緒に塔に戻っていくのを確認した後に、ようやく彼は、私に向き直った。

その鋭い瞳が、下にすーと動いてき、ある場所で止まる。

やはり、彼には誤魔化せないか。



「―――パトリック、留守中ご苦労だった。何が、あった?」



表情の変化と同じく、声も彼女に対するものと全く違い、厳しさを含んでいる。

別に同等にしてくれとは言わないが、今日は身に覚えがありすぎて叱責されている気分になり、何とも居心地が悪い。



「あぁ、これは少しばかり大袈裟なんだが―――・・・いや、部屋で話すよ。それよりも、だ―――シンディ、こちらにおいで」



ウォルターの隣で大人しく立つシンディに声をかけアランの前まで導くと、王家の令嬢らしくきちんと挨拶をする。

以前のような、従兄のアランとしてへの対応ではなく、王子アランへの礼儀をとった。

恐らく彼が結婚した影響もあるだろうが、シンディも成長し少しずつ大人への階段をのぼっている。

兄としては、嬉しくもあり寂しくもある、複雑な気持ちだ。



「アラン様、お久しぶりで御座います」

「久しいな。シンディ、食事会はどうであった?」

「えぇ、とても楽しめました。国王様のお話が面白くて――――」
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