シャクジの森で〜番外編〜
エミリーのか細い指が私の肩に置かれ、背伸びをして耳に唇を寄せてきた。

彼女の声が、小さく届けられる。


こんな些細なことでも、心臓が跳ね上がる。



「・・・―――そうか、知らなかったな」


「えぇ、そうなの。いいところありますか?」


「あるが、あそこは外れにあるゆえ、結構歩く・・・良いか?」


「平気です。アラン様と一緒なら、歩くのも楽しいもの。デートってそういうものでしょう?」



そう申して、ふわりと微笑みながら手をきゅっと握ってくる。



・・・・エミリー、それは無意識なのか・・・。



どうしたものか。


このままでは、今日一日、心臓が持たぬかもしれぬ・・・。


これほどに心動かされるとは―――


デートというものは恐ろしいな。




手を握り返し、できるだけ傍に引き寄せた。


抱き締めたいが、ここは我慢せねばな・・・。




「・・・では・・参るぞ」


「はい、アラン様」


噴水広場から西に進路をとり、ゆっくり歩いていく。


ちょうど良い。

あちらには、あれがあるゆえ・・・。







―――・・・・?

・・・何だ・・・・?背後で妙な気配がする―――





「きゃーーっ!何するの!」

「スリだ!!」

「誰か捕まえて!!」

「あいつだ!!そっちに逃げたぞ!」




にわかにざわめき始める噴水広場。

声に振りかえると、スリと思しき男が人をなぎ倒しながらこちらに向かって走り込んで来るのが見えた。




―――妙な気配の原因はこれか?


結構大柄な男だな。

一般人には取り押さえられまい。

警備の者は・・・近くにはおらぬ・・・か。


間に合わぬな―――全く・・・こんな時に・・・。


二人組をちらと見やれば、皆と同じように騒ぎを気にしている様だ。


あれならば、暫くは何もせぬと思うが・・・。

少々気にはなるが、仕方あるまい。

犯罪は見過ごすことは出来ぬ。




「エミリー、良いか。少々これを持って待っておれ。絶対に、ここから動くでないぞ」


「はい・・アラン様・・・あの、気をつけて」

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