シャクジの森で〜番外編〜
早速仕事に取りかかるスミフに別れを告げ、仕事部屋から出て、人一人通るのがやっとの狭い廊下を通り、店の中に入る。

喫茶部分では夕暮れが近いにもかかわらず、ケーキをつつきながらコーヒーを飲む客がまだたくさんいる。


それを横目で見つつメルヘンチックな扉を揺らす。

カラン・・・コロン・・・とベルを鳴らす扉を開けたまま支え、エミリーを先に通した。



「ねぇ、待って」



サリーが慌てて走り寄ってきた。

手には花飾りの入った袋を持っている。


―――忘れておったな・・・。


先に出たエミリーを見やると、扉の傍に置いてあるパステルカラーに彩られた色とりどりの鉢を眺めていた。

よく手入れされた花がそれぞれに植えてある。



「ほら、コレ。忘れちゃダメだろ」


にっこりと満面の笑みを浮かべるサリーから袋を受け取る。


「サリー、今回はいろいろと礼を申す」


「いいんだよ。私もスミフも王子妃様にぞっこん参っちゃったよ。アンタみたいな怖い人にずっとくっついていられるなんて、貴重だよ。大事にしなよ」


――ぞっこん・・・とは何だ・・・?

サリーの城下言葉は今ひとつよく分からぬ。

だが、エミリーを好きになってくれたことは、よく伝わってくる。


「・・・分かっておる」


「でも王子妃様って、ほんとアンタに―――・・・」


言いかけた言葉を飲み込み、こちらをじっと見上げるサリーの口がぷっと歪み、笑い声を漏らす。


一体何を考えているのか。


やはり女性の思考はよく分からぬ。

いや、サリーの思考が特別ゆえ分からぬのか。

レオの顔が思い浮かんだ。

少々、似ておるかもしれぬ。



「あ、笑ってごめん。・・・ほら、もう行きなよ。王子妃様がまっ――――っ!?」


急に息を飲み、サリーの瞳が大きく見開かれ横に移動していく。

両手で口を押さえ、ぶるぶると震え始めた。


尋常でないその様子からすぐに事態を飲み込み、おろおろしているサリーに荷物を押し付け、外に飛び出した。




「あぁ、もう・・・なんてこと・・・王子妃様っ!・・・どうしよう・・・。どうしよう!?」


―――私のせいだ。

私がアラン王子を引き止めたから―――


へなへなとその場に座り込む。



「ス・・スミフ!!スミフ!!」



空のアトリエの中に、震えるサリーの声が響く。

千切れんばかりの悲痛な呼び声に、スミフも急いで飛び出して来る。



「サリー、どうした!?」



喫茶の客も、何事があったのか、とざわめき始める。



「何があったんだ」

「今、サリーが王子妃様って、言ってなかったか?」

「まさか。うそだろ!?おい、サリー、一体どうしたんだ」



席を立ち、窓の外を見る者。

ペタンと座り込むサリーを気遣い手を差し出す者。


喫茶の中は騒然とした空気に包まれた。
< 69 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop