シャクジの森で〜番外編〜
テーブルに置かれた燭台の炎がチラチラと揺れ、壁に一つの長い影を落とす。

理容店の一角の静かな空気の中、アランの掌の中がぴく・・と動いた。


長い睫毛が震えゆっくりと開かれていく。


アメジストの瞳に薄闇色の天井が映り、唇が僅かに動き不安そうに眉を寄せた。

瞳は何かを求めるように彷徨う。

ゆっくりとそれが移動し私の姿を映すと、安堵したのか体の力がふっと抜け、結んでいた唇を動かした。



「・・・アラン様・・・・ここは、どこですか?」


「ここは西通りの理容店だ。・・・身体は平気か?痛むところはないか?」

「はい、大丈夫です」

「―――・・・すまぬ・・・私が手を離したばかりに―――っ・・・」



ずっと握っていた手をさらに強く握り締め唇に寄せる。

掌にすっぽりと収まる小さな手。

守ると誓ったのに、決して離さぬと心に決めておったのに

君を危険な目に合わせてしまった。



「アラン様・・・そんな辛そうな顔しないでください。最初に注意を受けていたのに、離れたわたしが悪いんです。それにわたし、あのときぜんぜん怖くなかったんです。アラン様が必ず助けてくださると、信じてましたから」



ふわりと微笑むエミリー。

あたたかく柔らかなオーラがアランをふんわりと包み込み、心の片隅に居座り続けていた銀の龍を奥底の蓋の内に戻していく。

犯人に対する怒りの感情が少しずつ萎んでいく。

背中に腕を差し入れ、ゆっくり抱き起こした身体をそのまま抱き締める。



―――君は、そのように信じてくれるのか。

この私を・・・・。

私は・・・君を守るためであれば、なりふり構わず冷酷非情な鬼となる。


犯人に容赦なく向けた言葉の数々。

冷静さを欠いていたとはいえ、あれは少々残酷すぎた。

このような冷酷な部分を知ったとしたら、君はそのように微笑んでくれるだろうか。

信じると、申してくれるだろうか。

きっと、怯え震え拒絶するであろう。




抱き締める腕に力がこもる。





「エミリー・・・こんな私を、許してくれるか?」


「はい・・・ぇっと・・・こんな??」


「私の内には恐ろしい鬼が居る・・・それを目の当たりにすれば、君は怖いと感じるだろう。こうして傍にいることが辛くなるかもしれぬ」
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