プレシャス
「なんか盛り上がってるね」
ワイワイ騒ぐ頼子達の席の後ろから、ひょっこり顔を出したのは坂井君。
「ごめん、うるさかった?」
「あぁ、大丈夫。それよりこれ、マスターから差し入れ」
コトンと
丁寧にテーブルに置いてくれたのは
きちんと小分けされたグレープフルーツ。
「二日酔い防止になるからって」
どうぞって向けてくれる柔らかい笑顔。
「や~ん、マスターやっぱり素敵~っ」
「マスター、一歩リードだな。どうする圭介(笑)」
「いや若さなら勝てるっ」
「若さだけな」
差し入れのグレープフルーツに手を伸ばしながら
ゲラゲラ笑う大造達。
さっきまで
あんなに別れろって騒いでたのが
もう違う話に切り替わってた。
もしかして
これ…
チラッと斜め後ろの坂井君を見上げると
「志穂さんも、はいどうぞ?」
添えられたつまようじに一つ刺して、ニッコリと手渡してくれた。
「…ありがと」
……もう…
気づかいすぎ。
わざわざタイミング見計らって来てくれたんだ?
「ちょっと酸っぱいかも」
「え~?甘くて美味しかったよぉ」
でも
いつも思う
あたし
優しくいつも
見守ってもらってるんだなって
「俺のもぜんぜん酸っぱくなかったぞ?」
「うん、美味かった」
「ホントに~?………ん゛!!酸っぱい~っ」
「あははっ!!引っかかってるし」
口に入れたグレープフルーツ
こめかみが痛くなるくらい酸っぱくて。
悶絶するあたしにゲラゲラ笑うみんな。
でも
そんなあたしを見下ろす坂井君の目は
やっぱりどこか…
甘く感じた。