愛のかたまり
 完全なる自爆。

 急に感情が爆発して、そういうことを最もバカにしているはずなのにどんどん声が大きくなるのを抑えきれない。いつもいい子で、感情をコントロールするのは得意だったはずなのに。

 勝手に話し出して興奮して、勝手に怒ってるんだから世話はない。頭の中のもうひとりは、理不尽な感情の波を持て余して途方に暮れている。

 海さんはむきかけの梨と包丁を静かに置くと、決然とした顔で近づいてくる。

 見上げると高い位置にあった海さんの顔がどんどん近づいて、思わず目を瞑った。

 瞬間ふわりと空気が動き、すべらかな黒髪があたしの顔に降りかかった。仄かにあまい梨の香りが漂う。

 抱きしめられることに慣れていないあたしは反射的に振りほどこうともがいたけど、細いわりに彼女の腕はびくともせず、頭の天辺に細く尖ったあごがそっとあてられた。

 暴れても暴れても、けして崩れない。

 あきらめて力を抜くと骨っぽくて、でもあたたかな身体が包み込んだ。

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