愛のかたまり
 途端に、不安が襲ってくる。

 ここはあまりにも居心地がよすぎる。

「どうして何も訊かないの」訊ねた声には微妙に棘がはえた。

 海さんは微笑んで、「こういう時って、どんなことを訊くべきかしら」なんて、逆に訊きかえす。

「どういうって・・・・・・名前は、とか、いくつ、とか、家出したんでしょうとか・・・・・・」

 言いながら墓穴を掘っている気がしてくる。

 海さんは相変わらずにこにこしたまま、「そうそう、梨があったんだわ。むいてあげましょう」と言ってソファから立ち上がり、キッチンへと向かった。

 その背を追いかけるようにして、悲鳴みたいに棘だらけの言葉が溢れ出す。

「親が心配してるとか、早く家へ帰りなさいとか、子どものくせに、とか・・・・・・普通の大人たちなら皆言うよ! なんで? 迷惑だって正直に言えばいいのに! 付き合いきれないって・・・・・・厄介な子どもだって!」

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