愛のかたまり
 扉が開かれた。

 一人暮らしにはひろすぎるその部屋は、一歩踏み出すのをためらわせるほどに冷たく澱んだ空気が渦巻いていた。

 ふたりは思わず震えて足を止めた。

 能天気な管理人だけが何も気づかずにずけずけとあがりこんだ。

 すぐにあがる悲鳴。

 意識を置き去りに足は勝手に動いて、あちこちに取り残されている幸福の残骸たちの横をすり抜けその場所へ。

 あたしたちは呆然と立ち尽くし、慌てふためいて119番する管理人の声が遠くに聞こえていた。
< 82 / 88 >

この作品をシェア

pagetop