愛のかたまり
 彼女はそこに、いた。

 いや、彼女のぬけがらがそこにあった。

 もう息がないのは明らかだった。

 白いワンピースに赤い血が映えて、ドラマよりも現実味がなかった。

 化粧をしていない顔は少女のように幼く、頬は生きているみたいにつややかだ。

 別人みたいな印象、怖く悲しかった顔をふうわりとやわらかな微笑に変えて穏やかだった。

 これがたぶんこの人本来の顔なんだろう。

 花のような微笑みだ。

 優香子さんはこの時をずっと待っていたのかもしれない。

 ふとあたしは思った。

 安心したと、やっと死ねるとその顔が言った気がした。

 彼女をこの世に引き留めていたのは、ひとりで崖っぷちに立ち尽くして震えている夫の姿だけだったのかもしれない。

 
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